
スマートフォンやスマートウオッチなどの携帯型電子機器から、車載機器や産業機器まで非常に広い範囲のアプリケーションで使用される「スプリングフィンガー」。極めて小さな機構部品だが、さまざまな電子機器の内部で重要な役割を果たしている。代表的な使い方は、プリント基板と筐体(ケース)を接触させてグランディング(シールディング)を確保したり、小型アンテナの給電部とプリント基板の電源ラインの接続を確保したりすることなどだ。
このスプリングフィンガーの世界市場において、TE Connectivityは有力な地位にあるという。もともと同社のスプリングフィンガーは日本国内で開発/設計されたもので、特性の高さや信頼性の高さは非常に優れているものだと。そこで今回は、同社でスプリングフィンガーのプロダクト・マネジャーを務めるKelvin Hsieh氏に、同社製品の採用状況や品ぞろえ、製品の特徴などについて聞いた。
(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)
「スプリングフィンガー」とはあまり聞き馴染みのある言葉ではない。ほかにどのような呼び名があるのか。
Hsieh スプリングフィンガーは、この機構部品を表現する最もポピュラーな名称である。ただし、このほかにも呼び名はある。例えば、グラウンド・コンタクトやグラウンディング・スプリング、クリップ端子などである。
スプリングフィンガーの具体的な使い方を教えてほしい。

図1: スプリングフィンガーの採用事例
民生機器、産業/車載機器、医療機器での採用事例である。アンテナへの給電、プリント基板(PCB)のグラウンド接続、マイクロフォン/スピーカー/バイブレーターの接続などで使われている。
Hsieh スプリングフィンガー自体は、はんだ付けして使用する。スプリングフィンガーは「バネ」の機能が備わっており、上から力を加えて押し付ければ高さが縮む。この原理を使って、確実な電気的な接続を形成するというものだ(図1)。例えば、小型アンテナであれば、スプリングフィンガーに押し当てるだけで給電点を簡単に接続できる。ワイヤーなどを使って接続する場合は、はんだ付けしなければならないが、スプリングフィンガーを使えばそれが不要になる。作業の手間を省ける。しかも、単純に押し当てて接続するだけなので、スペース・セービングの効果もある。
プリント基板のグラウンディングやシールディングでは、スプリングフィンガーをどのように活用するのか。
Hsieh 最近はこうした使用例は少なくなってきているが、携帯電話機に内蔵する小型のプリント基板の外周にスプリングフィンガーを10個も、20個も並べて、グラウンドの役割を果たす筐体(ケース)を押し当てるとグラウンドとの接続を確保できる。シールドの効果も得られ、放射電磁雑音(EMI)を低減できる。
スプリングフィンガーは、どのような電子機器に使われているのか。採用実績を教えてほしい。
Hsieh 例えば、米Fitbit(フィットビット)や米Garmin(ガーミン)ではウエアラブル端末に、米Motorola Solutions(モトローラ・ソリューションズ)では無線通信端末に、中国Huawei(ファーウェイ)ではモバイル機器に、デンマークGN Audio(ブランド名はJabra)ではヘッドセットに採用された実績がある。この話だけ聞くと、スプリングフィンガーは、ウエアラブル端末に近い電子機器にしか使えないと思われるかもしれない。しかし、そんなことはない。ウエアラブル端末以外でも採用例はたくさんある。具体的には、米Square(スクエア)はPOS端末に、独Bosch(ボッシュ)はヒーティング・システムに、カナダFleet Completeはスマート・トランスポーテーション・システムに採用している。産業分野は選ばない。実際のところ、さまざまな用途で使われている。スプリングフィンガーの応用分野は極めて広い。
「4つの軸」で最適な製品を選択
スプリングフィンガーには、どのような製品があるのか。また、スプリングフィンガーの選択方法を教えてほしい。

図2: スプリングフィンガーの4つの軸
「製品のタイプ」「非圧縮時の高さ(Uncompressed Height)」「作動範囲(Working Range)」「電流容量(Current Capacity)」という4つの軸にしたがって製品を選択する。
Hsieh 当社のスプリングフィンガーは、「4つの軸」で分類している。それは「製品のタイプ」「非圧縮時の高さ(Uncompressed Height)」「作動範囲(Working Range)」「電流容量(Current Capacity)」である(図2)。この4つの軸にしたがって選択すれば、ユーザーが設計している電子機器にとって最適なスプリングフィンガーを見つけ出すことができるだろう。
4つの軸とはどのようなものか。それぞれについて詳しく説明してほしい。
Hsieh 「製品のタイプ」とは、形状や構造のことだ。当社では5つのタイプを用意している。具体的には、「Cタイプ」「Boxタイプ」「Yタイプ」「Pre-loadedタイプ」「Ultra-smallタイプ」の5つである(図3、図4)。
「非圧縮時の高さ(Uncompressed Height)」とは、プリント基板に押し当てる力を加えていないときのオリジナルの高さである。0.8〜7.0mmの製品を用意している。「作動範囲(Working Range)」は、電子機器に実際に適用し、プリント基板に押し当てて力を加えた際に縮んだ距離(高さ)である。当然ながら、非圧縮時の高さ(Uncompressed Height)よりは小さな数字になる。最後の「電流容量(Current Capacity)」は、スプリングフィンガーを介して流せる電流の最大値である。
5つの製品タイプを詳しく教えてほしい。

図5: Pre-loadedタイプ
Pre-loadedタイプのスプリングフィンガーである。あらかじめ一定の荷重がかけられた状態にあるため、押し付ける力と縮む距離(高さ)の関係が作動範囲において一定である。弱い力でも押し付けられ、コンタクトを形成できる。
Hsieh 「Cタイプ」と「Boxタイプ」は、スタンダードかつシンプルな形状であり、さまざまな用途に簡単に適用できるという特徴がある。「Yタイプ」もシンプルな形状である。しかし高さが低い。低背化が求められる用途に最適である。
「Pre-loadedタイプ」は、特徴があるタイプである(図5)。Pre-loaded(プリローデッド)という言葉の通り、あらかじめ一定の荷重がかけられた状態にある。そのため、押し付ける力と縮む距離(高さ)の関係が作動範囲において一定である。CタイプやBoxタイプ、Yタイプはいずれも、強く押し付けないと縮む距離(高さ)を稼げない。Pre-loadedタイプを使えば、通常、ある高さを維持するには0.5Nが必要なところを、0.2Nで済ませることが可能になる。つまり0.3Nの力が不要になり、弱い力で安定したコンタクトを確保できる。Pre-loadedタイプに対するユーザーの評価は高い。ユーザー(電子機器メーカー)の中には、Pre-loadedタイプしか使わないというところもある。実際に、最も売れているのはこのタイプである。
最後の「Ultra-smallタイプ」も、プリロードが掛かっているタイプである。ただし、Pre-loadedタイプに比べると外形寸法が比較的小さい。このためUltra-smallタイプという別のタイプに分類している。
プリロードで押し付ける力を削減
なぜプリロードが必要なのか。もう少し詳しく説明してほしい。
Hsieh 例えば、薄いプリント基板やアンテナの場合、強い力で押し付けられない。このため、ユーザーからは、弱い力で取り付けられるようにしてほしいという声が多い。そうした声に応えるのがPre-loadedタイプである。
Pre-loadedタイプを採用しないと、どのような事態が起きる?
Hsieh スプリングフィンガーは、1個だけ使う場合もあれば、10個も20個も同時に使う場合もある。そうした多くのスプリングフィンガーを使う場合は、プリント基板に対して大きな負荷をかけることになる。その結果、プリント基板を変形させたり、反らせたりする危険性がある。そうした事態を防ぐためにPre-loadedタイプが使われている。
Ultra-smallタイプとPre-loadedタイプはどのような違いがあるのか。その定義を教えてほしい。
Hsieh Ultra-smallタイプは、数年前から販売を開始した製品だが、2022年4月に再発売した。現在は販売代理店とともに販促活動を強化しているところだ。Ultra-smallタイプは、2つの条件を満たしたときに、その名称を付けている。2つの条件のうち1つは、フットプリントの幅が1mmであること。もう1つは、非圧縮時の高さ(Uncompressed Height)が低いもの。この2つの条件に合致したスプリングフィンガーがUltra-smallタイプの分類になる。より小型化を追求した製品と理解してほしい。ただし、例外が一部あるので注意してほしい。
Ultra-smallタイプはどのような電子機器に使われているのか。
Hsieh 決して用途を限定しているわけではないが、このタイプは、より小型の電子機器に採用されるケースが多い。例えば、電子タバコやスマートウオッチ、TWS(True Wireless Stereo)イヤホンなどである。
品ぞろえと技術力が強み
日本国内の競合企業はどこか
Hsieh 日本国内にも競合企業が複数社ある。
競合他社品と比較した際の強みは何か。
Hsieh 当社の強みは、製品ポートフォリオの広さや、技術力の高さ、品質の高さにある。例えば、めっき厚は、ユーザーの購入数量に応じてカスタマイズできる。さらに、技術力や信頼性の高さについては、すでに世界中で非常に多くのユーザーに対する販売実績があることが裏付けているといえるだろう。
スプリングフィンガー市場において、世界シェア第1位のメーカーはどこか。
Hsieh 対象とする市場分野によって、世界シェア第1位のメーカーは異なる。このため市場全体で世界シェア第1位のメーカーを明言するのは難しい。
ただし当社は少なくとも、民生機器とIoT機器の市場分野では非常に有力なポジションにあるといえるだろう。実際に、特定のユーザーに対して数百万個/月の単位で出荷している実績があるからだ。
加えて、当社のスプリングファインガーは、日本の技術者が設計しており技術的に優れている製品だといえる。この点も、世界全体で売れている理由の1つである。なお、現在、生産は中国に移管しているが、サポートは引き続き日本の技術者が担当しているということも特筆しておく。
スプリングフィンガー市場では、他メーカーが数多く参入している。他メーカーと比較したときの優位点は何か。
Hsieh 世界全体での販売拡大にあたっては、物流網の十分な整備がカギとなる。この点、当社は物流網を整備できているので、販売代理店の力を借りながら世界全体でさまざまな電子機器メーカーに販売できている。
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