第2回:LDOとμModuleの比較

数多くある電源ソリューションから、小型で、低ノイズで、高効率を実現する都合の良いソリューションはあるのでしょうか?
当社のアプリケーション・エンジニアがお届けするアナログ・デバイセズ社の連載シリーズ、2回目は、μModuleとLDOの比較です。

前回の記事で、μModuleのメリットをお勧めさせていただきましたが、実際にはまだまだレギュレータやLDOを使用している方も多いと思います。
そこで、今回はLDOとμModuleの違いやメリットなどをお伝えしたいと思います。

LDOとμModuleの4つの違い

大きな違いや特徴として挙げられるのは、下記4つです。

  • 1)コンパクト
  • 2)ローノイズ
  • 3)高効率
  • 4)熱特性

それでは、1つづつ解説します。

1)コンパクト

電源部分の一番最小限の構成は、電源のラインから直接引き込むだけの使い方です。電池ボックスから直接給電するイメージでしょうか。
ですが、今回のようないろいろな電源系統がある場合は、そういうわけにはいきません。

前回の記事で、3系統の電源を1つにできます!とご紹介しましたが、LDOにはLDOの良さも当然あります。それは、電源系統が1つで済む場合です。これはそれほど理解するのは難しくないと思います。それでも、電源ICだけに着目するだけではまだまだ不十分です。
考慮すべきは、「パッシブパーツ」ではないでしょうか?いわゆる、コンデンサやインダクタといったパーツです。

LDO一つ載せるだけで電源を構成できるかといえば、当然「No」です。
当たり前ではありますが、目的の電源を設計する際には、インダクタやコンデンサといったパッシブパーツが必要になります。
これがないと電源を取り出すことすらできません。そのくらい重要な部品です。

簡単な比較画像を見てもらいましょう。

こちらは、2出力のレギュレーター(LTC3633)の基本回路例です。
パッシブパーツは、コンデンサ6個、インダクタ2個、抵抗4本あります。

こちらは、2出力のμModule(LTM4622)の基本回路例です。
パッシブパーツは、コンデンサ3個、インダクタ0個、抵抗2本あります。

評価ボードの写真を比べても、搭載部品が少ないことがわかると思います。
注目すべきは、インダクタが0個です。

もちろん、内部にはインダクタが各出力系統に搭載されているので、あくまでも外付けパーツとして説明しています。

基板設計がシビアになればなるほど、BOMが注目されるわけですが、μModuleならBOMも大幅に低減できることがわかると思います。

両者を比較したときに、LDOはICと同じくらいのサイズのインダクタを必要としています。コンデンサも大きな容量のものがついています。μModuleの場合は、小さい容量のものが、何個かついている程度です。この差は、基板面積やBOMコストに大きく影響するのではないでしょうか。こちらは、寸法に沿った比較です。基板は、μModuleの方が大きいですが、搭載部品は少なく、すっきりしています。LDOの方は、それなりに各パーツは小さいですが、実装密度が高そうな印象です。

加えて、μModuleは、とてもコンパクトです。

コンパクトと言っても、面積や高さのバリエーションも豊富にあるのもμModuleの強みです。ぜひ、Webでバリエーションを確認してみてください。

https://www.analog.com/jp/product-category/umodule-regulators.html

2)ローノイズ性能

つづいて、考慮すべき点としてノイズ性能です。電源のノイズというと、どんなに優れたエンジニアの方でも、「ああ・・・」という虚無感漂う表情をされます。

それだけ、切っても切り離せない現象であり、スパッと綺麗に解決できない厄介な存在ではあります。

ただ、ベストではないがベターであるという選択肢は残されているのも、ノイズ対策です。

ノイズ低減をするための基本的な方針として、以下の内容が考えられるのではないかと思います。

  • 1)部品点数を減らす
  • 2)GNDを大きく取る
  • 3)太く短く配線する

2−1)部品点数を減らす
搭載部品が少なければ、部品そのものはもちろんですが、リード線や端子における寄生容量の軽減が期待できます。寄生容量が多くなればなるほど、インダクタ成分や負荷容量に変化を与えます。そう言った点から考慮しても、部品点数が少ない方が、メリットは多いものです。

2−2)GNDを大きく取る
GNDを大きく取る。広く取る。いかにもノイズが低減しそうな響きではありますが、これは効果がある場合と、逆に効果が薄らいでしまう場合が考えられます。
一般的には、大きく取ることでインピーダンスを低くすることができるため、有効な方法です。ですが、全ての面をベタグランドにしてしまうと、分離しなければいけないGNDもノイズが回り込み、不要なノイズ発生の原因にもなりかねません。
そうならないため、できる限り同一信号系の範囲で最大に取れるGNDを用意した方がいいでしょう。評価ボードのパターン図など、良くみて設計に反映させてください。

2−3)太く短く配線する
パターンも、太く短く配線するのが電源設計のポイントです。長くなってしまうと、その分寄生インダクタおよび寄生容量が発生し、ノイズに弱い回路になってしまいます。
電源レールについて説明すると、太く配線する方が寄生インダクタや寄生容量の影響を抑えることができ、太く短く配線することを目標に、配線や引き回しを考慮した方がいいでしょう。また、多くの電源はスイッチング方式のため、その高調波成分が電圧レールに重畳され、リップルノイズの原因になります。リップルは、厄介な信号です。スイッチング電源の設計はリップルノイズとの戦いとも言えそうです。

3)高効率

電源回路設計で一番気になるのは、やはり電力効率ではないでしょうか?
電源回路の効率は、簡単に説明すると、入力の電力を100とすると、電源回路で目的の電源を構成した場合に取り出せる電力が、100とすると、「100%」という表現になります。
つまり、

電力効率= 出力電力/入力電力

という関係です。

実際には、100%になることはありませんが、目指すべきは100%です。

では、LDOとμModuleの場合を比べてみた場合、どのくらい違うのでしょうか。

こちらの図は、アナログ・デバイセズ社の資料から引用したものになりますが、LDOが48.26Wに対して、μModuleは78.05Wです。

計算方法は、Pinの電圧と電流の積で、電力が求められます。

LDOが、11.729(V)*0.676(A) = 7.929(W)です。
μModuleが、11.885(V)*0.442(A) = 5.256(W)です。

中段以降の項目の計算は省略しますが、Poutの合計が、Pout Totalで示されています。

LDOが、3.827(W)です。 μModuleが、4.104(W)です

LDOの効率は、3.827/7.929となり、0.4826が計算され、%計算すると、48.26%となります。

μModuleの効率は、4.104/5.256となり、0.7929が計算され、%計算すると、79.29%となります。
このように、μModuleは、非常に効率が良いということがわかっていただけると思います。
他にも種類がたくさんありますので、仕様にあった製品を見つけた場合、効率の項目を確認すると良いでしょう。

4)優れた熱特性

4つ目は、熱特性です。電源回路は、どうしても発熱を伴います。それは、入力された電力を異なる電圧や電流として作り替えるため、発熱が伴います。それは電気的に避けられない事実ではありますが、最近の素子の改善は目を見張るものがあり、通常使用においては気にならない程度の発熱量に抑えることが可能になってきました。
しかし、FPGAやAI処理を伴うシステムは、電源以外の発熱量が多くなりがちであり、装置として冷却機構を持たせる必要が生じます。ここでは、その要である電源部についての温度特性を比べてみたいと思います。

こちらは、μModule(LTM8033)と他社の電源ICの熱特性を比較した画像です。

中心部は同じような温度に見えますが、数値をよくご確認ください。
μModuleは中心部が55.5°Cですが、他社の電源ICは75.0°Cに達しています。
周辺温度も、μModuleは40°Cを少し超えている程度ですが、他社の電源ICは50−60°Cあたりを示しています。

μModuleがいかに熱特性に優れているかが、お分かりいただけるかと思います。

次のサーモグラフィーの画像ですが、これは同じμModuleを使って比較した画像です。

違いは、ファンで強制的に空冷している場合と、自然冷却の場合を示しています。

左が、自然冷却。右がファンによる強制冷却の様子です。

まずは、左画を見てみましょう。画面中央にボックスがありますが、その範囲にある高温点がMaxと書かれた横の数字になります。この場合は、μModuleの中心部です。デバイスまでは80°C近い温度です。
μModule近辺の温度で、60°C近い温度。パッシブパーツも含むエリアだと、40°Cくらいまで下がっています。

次に、右側のサーモグラフィをみてみましょう。中心部は、冷却ファンの有無に関わらず、同じ程度の温度を示していますが、若干高めに観測されています。
中心部が熱いのは、内部にインダクタを抱えているためで、この部分に関しては、同じμModuleなので、極端な違いはないと言えます。

ここでのポイントは、周囲温度の変化です。自然冷却の場合は40°C程度に見えますが、強制冷却は、20°C以下になっている様子が見てとれます。
電源設計においては、熱および温度についても考慮しなくてはいけないので、非常に厄介です。そんな時には、μModuleがその設計負担を軽減してくれます。

まとめ

第2回目は、μModuleの優位性を他の電源ICと比較して、解説してみました。

メリットが多いμModuleなので、おさらいしましょう。

  • 1)コンパクト
  • 2)ローノイズ
  • 3)高効率
  • 4)熱特性

です。どれも、設計要素として負担の多い要件ですが、μModuleならこれらの要件を満たすことができます。
電源設計は、ノウハウの塊と言っても過言ではありませんが、設計リソースが減っているあるいは、そのノウハウが薄れている今こそ、μModuleの恩恵を享受した方が、その他の設計に注力できることは間違いありません。
電源の設計の際は、μModuleをご検討ください。

次回は、μModuleの具体的な設計例をご紹介したいと思います。