第1回:電源設計の課題と対策
数多くある電源ソリューションから、小型で、低ノイズで、高効率を実現する都合の良いソリューションはあるのでしょうか?
当社のアプリケーション・エンジニアがお届けするアナログ・デバイセズ社の連載シリーズ、今回選んだのはμModuleです。µModule 電源製品は、高い効率性と信頼性と省パッケージを実現。豊富なバリエーションがあり、一部の製品では EN 55022 クラス B 規格に準拠した低 EMI 製品も提供しています。μModuleを使うことで、エンジニアの設計評価時間短縮と省スペースレイアウトを同時に実現する電源ソリューションです。
電源設計の課題とは?
μModuleの説明の前に、電源を設計するとはどういうことなのか?を少し解説したいと思います。電源は、全ての電気製品に欠かせない重要な部品です。しかも、扱う電圧や電流が大きくなれば、漏電による感電や、火災の原因にもなり得るため、これらの危険にも配慮しなくてはならず、より安全面に留意する必要があります。にもかかわらず、電源関係もしくはアナログ関係のエンジニアは年々減少傾向にあります。
しかし、最新のプロセッサーや高速にデータ処理を行うプロセッサーは、年々低電圧・大電流の傾向にあり、信号線はGbpsを超える設計を求められています。これらの基板設計においては、要件を満たすための電源設計および高速信号線に対するアナログ技術が不可欠です。他にも、EVをはじめとする車載関係においては、より高い電圧と電流が必要であり、低ノイズ性能も同時に求められています。
このような背景のもと、多くの半導体ベンダーが多様な電源ソリューションを展開しています。これは電源設計エンジニアにとって、選択肢が多いことは喜ばしいことではありますが、「どれを選んで良いかわからない」とか「なかなか仕様にあったものを探せない」といった声につながります。
電源設計というと、難しく感じるのは気のせいでしょうか?実際、電源の設計は易しくはありません。基本構成が分かっていたとしても、実際に回路に組んではじめて気が付くこともありますし、想定外のことも起こり得ます。実験用電源を組み上げるだけでも大変な上に、設計値通りに確認することや、各負荷の挙動を確認することや、リプル成分の確認、発振の有無など実に泥臭い作業が待ち構えています。ハンディタイプのテスターで確認できるようなものでもありません。
では、やはり電源は買ってきた方が楽なのでしょうか?
買ってきた電源システムは、ある意味仕様通りの電圧と電流が取り出せるものであれば、概ね問題ないでしょう。
しかし、こんなことはありませんか?
- 1)電気的要求は満たしているが、サイズが大きい
- 2)発熱が大きく、対流を増やすため筐体を大きくしなければいけなくなった
- 3)負荷変動が大きく、電源の仕様として余裕がない
こういう経験を踏んだエンジニアは、大体電源を設計し直すことになるというのが、これまでの経験則です。(個人的感想です。)
電源回路を組む前に考えてみること
電源設計の現代における課題を提示してみたものの、何から手をつけていけばいいでしょうか?
ベテランの電源設計エンジニアはどんな手順で設計していくかということは理解できていると思います。しかし、これから電源は自分で設計しようというエンジニアは何から手をつけていけばいいでしょうか?
実際、筆者も電源設計は苦手です。そんな時、便利だと思うのが、デバイスベンダーのサイト上にある「パラメトリック検索」ではないでしょうか?
先ほども少し触れましたが、電源デバイスのバリエーションはたくさんあります。
それを一つずつ調べるのは、効率が悪いので、潔く検索しましょう。
ただ、Googleで検索するのではなく、バリエーションがありそうだと思うベンダーのサイトからパラメトリック検索をするのがいいでしょう。
その時必要なものがあります。
<入力>
電圧、電流
<出力>
出力数
各出力に応じた、電圧と電流
最低限このくらいは事前に決めておく必要はあると思います。
例えば、あるSoCは、いくつも電源系統を持たなければいけない仕様だとします。
コア電源用に1.0V
内部レギュレータ用に1.5V
標準電源として、3.3V
それぞれ、1.0V 2A、1.5V 2A、3.3V 2Aであったとしましょう。
入力電源として、12V3Aくらいとしましょうか。
ここで考えなければいけないのが、電力です。
入力の電力は、電圧と電流の積で表せますので、36Wです。
出力は、3系統あるので、それぞれの電力を求めます。
1.0Vの系統は、2.0W
1.5Vの系統は、3.0W
3.3Vの系統は、6.6W
合計が、11.6Wとして求められます
これは、負荷が100%としての計算のため、大体20−30%の余裕を持たせようと考えます。
そうすると、11.6Wのx1.3すると、15.08Wとなります。
入力電力36Wに対して、出力電力15.08Wであればそれほど大きな負担にはならないだろうと考えられます。
もっとも、余裕を考えた設計値のため、実際の動作は、もっと少ないと思われます。
この例は、考え方の例として挙げていますので必ずこの方法にしなければいけないということではありません。ですが、ほんとに電源設計を初めて行うのであれば、この程度は考慮しないといけないと考えています。
自分の設計にあったデバイスの選び方
では、仕様に沿ったデバイスを探すときのポイントはどうでしょうか?
電源の部品は非常にたくさんあります。今回はデバイスを選定して、電源を作る想定で進めていきたいと思いますので、電源そのものを購入する選択肢はしない想定で進めていきます。
先ほど、電源の仕様を決めました。それに沿った電源を探します。
今回の例では、1入力3出力という比較的簡単な仕様です。
通常は、1つの入力から特定の電源用デバイスを使用して、1系統の電源を作ることが一般的です。
上の例では、
12Vから1.0Vにする系統
12Vから1.5Vにする系統
12Vから3.3Vにする系統
という1入力1出力を3つ用意することになります。
※最近では、電源トポロジーと呼んでいます。また、各素子に近くに電源を配置することをPOL(Point of Load)と呼びます。
一般的に、高い入力電圧から、低い電圧を取り出すための素子は、「降圧型レギュレーター」あるいは「リニアレギュレーター」という製品を選ぶことになると思います。
このタイプのレギュレーターは、非常に種類も多いですし、今回は深く掘り下げることは止めておきますが、広く一般的な回路構成で実現することができます。欠点としては、発熱を伴いますので、ほとんどのケースで、ヒートシンクを一緒に使用することになります。
これらの回路の特徴は、デバイスの特性も重要ですが、コンデンサやインダクタといった受動部品も一緒に使用することが多く、かつ電流や電圧が小信号用と比較すると大きなパッケージにならざるを得ません。また、無理やり小さくすると熱の問題も発生します。さらに、単に熱だけの問題ということはなく、ほとんどのケースで、熱雑音としてノイズ性能が悪化し、電源にノイズが乗るようになります。(リプル成分も含みます。)
対策すればするほど、どこかで抜け穴ができ、完璧な電源というものが出来上がらないのが、今の現状だと心得ておく方がいいでしょう。
電源の常識を打ち破る小型パッケージ
「完璧な電源はない」と書きましたが、それに近い形のソリューションは存在します。
これまでの、レギュレータベースの電源回路、発熱を伴う小型化、減らない受動部品、効率と発熱のトレードオフ、これらを解決するのが、アナログ・デバイセズ社の「μModuleシリーズ」です。
電源設計のプロはもちろん、初めて電源設計するエンジニアにぜひ一考していただきたいデバイスです。
μModuleシリーズは、年を追うごとに小型化、高効率化を実現してきました。最近では、低ノイズ性能をも実現し、電源の設計プロセスもソフトウェア上で確認できるため、大幅な実験工数を減らすことが可能です。
μModuleはこれまで先人が苦労してきたノウハウを1チップに凝縮しているため、初めてでも使いやすくできています。
先ほどの電源ツリーも、1パッケージで実現できます。
敢えて言いましょう、「これからはμModuleで設計する時代だ!」と。
そのくらい簡単に扱えて、高性能な特性を手に入れられるのですから。
実際に、電源の設計をしている方にμModuleの話をしても、これまでの経験からそれほど関心を持ってもらえないこともありました。ただ、今回のテーマに選んでいるように、最近のプロセッサやAIのエンジンは、低電圧高電流のシステムです。
5V3Aから上記に示した仕様の電源を作るとなると、低損失でなければいけなくなります。(そのような専用のレギュレータをLDOと呼んでいます。)
そういうシステムこそ、μModuleを使うことで、大幅な設計時間の短縮と安定動作と省スペースを手に入れられるのです。
実際、μModuleは実装が難しそうに見えますが、大きな障害ではありません。μModuleの中には、豊富な経験の技術に裏付けられたアナログ・デバイセズ社の多くの知見が詰まっています。
まだ使ったことがなければ、この機会にμModuleに触れてみてください。
これまでの電源設計の常識を打ち破る体験をしていただきたいです。
次回は、μModuleとLDOの違いなどを解説したいと思います。
次回もお楽しみに。